……… 山の本倶楽部 ………

山行報告

奥秩父・荒川支流金石沢

スペシャルプラン「沢歩き」
日程 = 2014年7月27日~28日 参加者 = 6名

 晴天の7月27日(土)、中央本線竜王駅に集まった6人は、2台の車で金石沢の出合にかかる橋へ向かった。先月に登った太刀岡山を右に見て、観音峠を越えると広い伐採地に出た。

 車を出ると、空気はからりとして気持ちが良い。無数の苗木には赤いテープが結んであり、遠くで数人が植栽をしていた。

 クネクネした林道を車は下るが、目標の橋が見つからない。多分、さっき通り過ぎたのがその橋だったのではないかということで、少し戻ると、橋とは呼べないような小さな橋に着いた。林の中に細い踏跡がある。出合だ。

 ザックを下ろして遡行装備を付ける。みんな行動が素早い。その時、佐藤さんが「あっ!」と言った。渓流シューズを家に置いてきたのだ。でも、ベテランなので誰も心配しない。

 軽くストレッチをして出発。木漏れ日の踏跡は下草も低く歩きやすい。3つ目の堰堤を左から巻いて河原に出た。岩にかけられた木の橋を数本渡ると、樹林の中の沢に入る。15m滝は上部が深くU字形に抉れて迫力がある。左岸の大岩は人の顔のようだ。左のルンゼから巻いて、踏跡をたどると滝の上に出た。花崗岩の段々のナメはフェルトが効いて快適だ。

 昼食は行動食だ。真っ先に女子から果物が出る。「早く荷持を軽くしようと思って!」。谷間に笑い声が響く。

 晴天下、ジャブ、ジャブ、水の中を進むのは気持ちが良い。目の前にお皿を交互にならべたようなナメが続いていて、とても楽しい。もったいないので、ゆっくり進む。

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ナメを遡行していく

 広い林に出ると、沢の左に台地があり、遡行図のとおり手前に枝沢がある。予定のテント場と思われるが、念のためリーダーが先を偵察に行く。しばらくして、リーダーが戻り、やはりここということでテントを張る。女性たちも佐藤さんも張るのが早い。モタモタしているのは私だ。

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台地にテントを設営

 周辺で焚き木ひろいに精を出す。佐藤さんが鋸を引き、リーダーが火床を作っている。焚き木が湿っているので技術がいる。あおぐのでなく、新聞紙を被せて熱を籠らせるのがコツだそうである。青い煙が昇ると、やがて太い木も燃えてきた。

 飲むにはまだ早いので、焚き火を前に歓談する。山に持っていく草履の話。「風立ちぬ」の話。なんとも無作為抽出。飛行機の爆音が近くに聞こえるが、樹林に囲まれて見えない。

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焚き火を囲んで夕食の準備

 日が陰りはじめた。夕食の準備だ。ジャズという林檎を岩に置いた時、「ポチャ」と沢に落ちてしまった。ひろいに行こうとしたが、たちまち見えなくなった。

 リーダーがザックから飯合と正方形の金網を出すと、メンバー持参の米が集まった。水加減は女性の領分、沢での調理はとても楽しい。久しぶりの焚き火は心が和む。

 さて焚き火を囲んで食べようとした時、ぱらぱら夕立が降ってきた。テントでの夕食に切り替え、食器を持ってテントにもぐる。思い思いの御馳走が所狭しと並んだ。

 今夜の話は、闇の政治権力、原発公害、考え直そう日本、これからの富士山などテントの中に熱気がこもる。今夜はやわらかい話はなし。女3人、男3人の公序良俗軍団だ。少し風を入れようと入り口を開けると雨は上がっていた。

 九時頃に御開きとなって、ふと気がついた。私のヘッドランプが見つからない。佐藤さんにランタンをお借りして事なきを得たが、大事なものは常に身につけていなければと自戒した。

 木の枝にかけた熊除けの赤い光が点滅している。シュラフに入り最近の山行を振り返る。岩菅山ではブヨの集中攻撃に遭って顔面血だらけとなり、そのままでは新幹線に乗れないと山仲間に宣告された。針ノ木岳では風雨にたたかれ、なぜか最近の山行はブルー。方違えをするか、初心に帰り単独行に徹するか、思いは千々に乱れて、いつしか眠りについた。

 翌朝、美しい鳥の声で目が覚める。雉打ちに対岸の森の奥に入ると、コケで地面が柔らかい。倒木の影に座り、熊はいないか辺りを見回す。朝から低空で飛行機の音が聞こえている。

 今日は二俣から右俣を遡行し、チョキを廻り、左俣を下降してテント地に戻るコースだ。女子のテントに行くとヘッドランプがあった。灰色のケースなので分からなかったのだ。蛍光テープを貼らなくては。

 朝食をとりながら、サブザックの用意をしていると、目の前の岩にそっと林檎が置かれた。古賀さんが見つけてきてくれたのだ。驚いて言葉が出なかった。感謝、感謝。

 焚き火跡を大きな石で覆い、予定より1時間早く出発する。天気は良い。2mから3mほどの滝が続いて快適に進む。5m滝は階段状だが、段差が大きい。リーダーが水流の右端をトップで登る。ロープをハーネスにセットし、リーダーの確保で登る。

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5m滝を慎重に登るリーダー

 堰堤を左から越えると二俣に着いた。川原の流れは細くなって滝もなくなる。右俣に入り稜線のコルを目指して進む。

 藪はないが、鬱蒼とした樹林の中は地図を見てもルート取りに悩む。右の尾根に沿ってしばらく行くと炭焼窯の跡が二カ所あった。直径4m位で煙出しの跡も残っている。尾根をよく見ると道があるので、尾根を登って稜線へ出ることになった。勾配はゆるやかで歩きやすい。コル手前の草原に出ると、左手にチョキと岩峰が見えた。

 あそこまで行くのか思った瞬間、両目に石鹸水が入ったような感じがして、目を開けていられなくなった。思わず、「誰か目薬を持っていませんか?」と叫んだところ、幸いなことに大島さんが「あるかもしれない」と言う。淑女のポシェットを覗いてはいけないのだが、懸命に目薬を探している白い指が、ぼんやりと見える。「あった!」。シバシバする目に数滴たらすと、たちまち目の痛みはなくなった。ありがとう大島さん。何か見てはいけないものを見たのでは、という声もあったが、見渡せば美しき天然の世界。緑の魔境ではない。不思議な現象だと思ったが、おそらく汗の塩分が目に入ったのだろう。あまり汗をかかなくても、確実に塩分は外に出ているのだ。

 コルからチョキまでは樹林と草原の踏跡をたどる。暗い林の中に岩が見えてくる。道は岩峰の右に沿って続いている。左手に岩の頂への小さな表示板がある。岩の段々を登りきると、金峰山から瑞牆山へのパノラマが広がった。思わず歓声が上がる。灌木と岩のピークで絶景に見とれていると、古賀さんがザックの中から大きなメロンを取り出した。「わー、すごい」。みんな目が点になって、厚くカットされた冷たいメロンにかじりついた。皮が薄くなるまで食べたのは、皆、同じであった。

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八幡尾根は快適に歩けた

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チョキ付近からの展望(左に瑞牆山、右に金峰山)

 チョキへは草原のゆるやかな踏跡をたどる。森のなかにあって強い日は差さないが、草の間から、にょっきり、夏ミカン色の花が目立つマルバダケブキや、白い花をたくさんつけたバイケイソウが咲いている。

 緩やかに登って、木立に囲まれたチョキの山頂につく。木に付けられた手製の標識が可愛らしい。「この付近は楓が多くて、秋はきれいでしょう」と谷口さんがあたりを見上げている。彼女はつい最近、チョキから金峰山までこの八幡尾根を一人で歩いたとのことだ。すごい人がいるものだ。

 チョキから踏跡を足早に下って平らなコルに出る。金石沢左俣へ下降すると溝状の細いガレになる。危険はないが、足元が小さな自然の砕石でズリズリである。大島さんも、谷口さんも笑いながらジャリセードで下ってくる。左俣を30分下ると金石沢の二俣に出た。これで周回したことになる。

 二俣から5m滝手前の右の踏跡に入る。進むとルンゼが崩壊していて戻る。砂状の急斜面に踏跡があって少し進んだが、滑落の危険があるので戻り、大きく巻くとトラロープがある。『ウォーターウォーキング』の著者である綱島さんがセットしたものだ。ルンゼを降りて川原に出て間もなく、人待ち顔のテント場に着いた。ひと息ついてからテントをたたみ、テント場を後にした。

 段々状のナメを下り、木橋を数本渡る。堰堤の左側の道をたどり、不明瞭になったところから堰堤真下に降り、対岸の踏跡を歩いて出合に戻った。大島さんが「楽しかった」とつぶやいたのが心に残った。

 短い沢歩きでも充実した2日間だった。脳には楽しい刺激が必要なのだ。佐藤さんが運転する車の中で、私はとりとめのない話をしていた。ふと窓を見ると、遠くなっていく山々に大きなメロンの思い出が重なった。

(Hiroshi I・記)

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